有給休暇の消化中に、転職活動を行ったり転職先での就業を行ったりするのは可能なのでしょうか。本記事では、こうした疑問について、法律的な観点から答えを探っていきます。転職にあたって有給休暇の活用を検討している人は、ぜひ本記事を参考にしてください。
有給消化中に転職活動する際の注意点
有給消化中の転職活動は可能であるものの、効率的に転職活動を進めるための注意点がいくつか存在します。それでは、有給消化中に転職活動する場合、どのようなポイントに注意すべきなのか詳しく見ていきます。
1.有給消化中の転職活動は可能
有給休暇の取得はすべての労働者に与えられた権利であり、どのような理由でも取得できる上に、取得理由を会社側に申し出る必要もありません。
そのため、転職活動を行うといった理由でも有給休暇の取得は可能で、有給消化中に転職活動を行うことを上司へ伝える法律上の義務はないのです。実際に、有給消化中に転職活動を行う者は多く、有給休暇を使っての転職活動自体に問題はないと言えます。
2.在職中に転職先企業の目星はつけておく
退職前の有給消化中に転職活動を行う場合、できるだけ活動をスムーズに進めるためにも、在職中にあらかじめ転職先企業の目星をつけておくことをおすすめします。
有給休暇に入ってから、いざ転職先企業や業界をどこにしようかと考えるのでは、履歴書作成や面接対策をすぐに行えず時間のロスになってしまいます。したがって、有給休暇を取得する前に、転職エージェントを通して情報収集を行い、転職を希望する業界や職種、企業をあらかじめ絞っておくのが賢明です。
3.転職活動が難航して長期化するケースもある
有給消化中に転職活動を行ったとしても、有給期間が終わるまでに転職先が決まるとは限りません。その場合、退職後に無収入の状態で転職活動を続けなければならず、経済面が心配な人もいるでしょう。有給消化中は無収入の状態ではないですが、有給期間が終わった後の金銭面でのやり繰りを考えておくのが安心です。
4.転職活動と現業務の両立が難しい人は退職後がベター
有給休暇の取得はすべての労働者が持つ権利ではありますが、企業側の理由で有給休暇の取得を嫌がる企業も存在します。例えば、有給休暇を転職活動に充てようと考え、2週間から1か月ほどまとめて取得しようと思っても、業務が回らなくなるといった理由でやんわり拒否されることもあるのです。
このように、現在の業務の性質上、有給消化中に転職活動を行うことが難しい場合、退職してから転職活動を始めるのがおすすめです。
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有給消化中に転職先で就業は可能か
転職先から「有給期間を使って研修を受けませんか」「すぐに働きに来ませんか」と声がかかった際、現在の企業での有給消化中であっても、転職先で就業することは可能なのでしょうか。ここでは、有給消化中に転職先で就業が可能かどうか、就業規則や法律の観点から解説していきます。
1.現職と転職先双方の就業規則を確認する
有給消化中に転職先で就業することを禁止する法律はありませんが、就業規則で二重就労を禁止する企業は存在します。
そのため、有給消化中に転職先から出勤依頼があった場合、現在の勤め先と転職先の両方について、二重就労を禁止する規定がないかどうかを確認するようにしてください。一般的に、転職前後の双方の企業から了解を得られていれば、退職前の有給消化中に転職先で就業することは、就業規則に違反しないとされています。
しかし、転職先から出勤依頼があった際には、現在の勤め先と転職先の人事担当者の両方へ、就業規則に抵触しないか必ず確認するようにしましょう。
2.雇用保険はダブルで加入できない
2社以上の企業で雇用保険に加入することはできません。したがって、有給消化中に転職先で就業する場合、現在の勤め先で雇用保険資格喪失手続きをしてもらう必要があります。その後は、転職先で新たに雇用保険へ加入する手続きを行ってもらうようにしましょう。
また、労災保険、年金や健康保険といった社会保険においては、現在の勤め先と転職先とで加入期間が重複していても構いません。しかし、雇用保険については二重加入が許されていないため、有給消化中に転職先で働く場合には、現在の勤め先で必ず雇用保険の資格喪失手続きをお願いするようにしてください。
3.有給消化中である旨を伝える
ここまで解説した通り、有給消化中に転職先で働く際には、就業規則での二重就労禁止に抵触しないかどうか、雇用保険に二重加入していないかどうかに注意する必要があります。
そのため、転職先から研修への参加や就業の依頼があった場合、現在の勤め先と転職の双方へ「有給消化中に就業・研修を行う」旨を伝えるようにしてください。もしも、有給消化中であることを隠して転職先で働いた場合には、転職先からの信頼を失って転職自体がなくなってしまうおそれもあります。
4.転職先以外のアルバイトやパートも二重就労になる
現在の勤め先での有給消化中、転職先以外の職場でアルバイトやパートを行う場合にも二重就労となる点に注意が必要です。例えば、有給消化中に暇だからと短期バイトを行ってしまうと、現在の勤め先とアルバイト先とで二重就労が発生してしまいます。
現在の勤め先の就業規則で二重就労が禁止されていなければ、こうしたケースは問題になりません。ただし、有給消化中にアルバイトやパートを行う場合、必ず現在の勤め先の就業規則を確認するようにしてください。
有給消化中に内緒で転職した場合に生じるリスク
有給消化中に、現在の勤め先へ内緒で転職したり、転職先へ有給消化中であることを隠したりしてしまうと、一体どのようなリスクが生じるのでしょうか。それでは、有給消化中に内緒で転職した場合のリスクを詳しく見ていきます。
1.就業規則違反で懲戒処分となるリスク
現在の勤め先の就業規則において二重就労が禁止されているケースでは、二重就労を行うことで懲戒処分となるリスクが生じます。その結果、退職時に支給されるはずだった退職金が満額もらえなくなったり、一切支給されなくなったりといったデメリットがあるのです。また、金銭的にダメージを受けるだけではなく、円満に退社できなくなり精神的にも大変つらいため、絶対に二重就労の規定に抵触しないように注意しましょう。
2.転職先の入社の取り消しや解雇のリスク
転職先の就業規則において二重就労が禁止されているケースでは、有給消化中であることを転職先に隠して就業した場合、転職先への入社取り消しや解雇のリスクがあります。二重就労がバレてしまうと、せっかく努力して勝ち取った転職も水の泡です。
また、二重就労を注意されるにとどまったとしても、入社後に気まずさを感じながら仕事をしなければなりません。二重就労がバレたことが原因で、将来の人事評価が不利になるかもしれない不安を抱えることにもなりかねません。気持ちよく転職先で働くためにも、転職先へ有給消化中であることを隠すようなことは、決してしないようにしましょう。
円満退社するために有給消化で気をつけるべきポイント
せっかく転職するのなら、現在の企業から円満に退社したいものです。ここでは、退職時に有給休暇を消化する際、円満退社を実現するためにはどのようなポイントに注意すべきかを解説していきます。
1.事前に有給休暇の保有日数を確認しておく
退職日までにすべての有給休暇を消化したい場合、事前に残りの有給休暇日数を確認しておきましょう。企業によって、有給休暇の付与日数は異なるため、確実なのは企業の人事担当者や管理職へ残日数を確認する方法です。また、就業規則において定められた休日は有給休暇としてカウントされないため、休日を除いた期間で残りの有給休暇を消化しきれるか注意が必要です。
2.有給休暇を消化したい旨を伝える
退職したいことを上司に伝える際、残りの有給休暇を消化したい旨を必ず伝えるようにしてください。これは、有給休暇を消化するスケジュールや退職日の調整、業務の引継ぎの概要といった相談を上司と行うためです。
会社側も納得する形で有給休暇を取得できれば、退職時に気持ちよく送り出してもらえるはずです。また、すでに退職が決まっている場合でも、有給休暇を消化したい人はなるべく早めに上司へ伝えるようにしましょう。
3.引継ぎなど支障がないよう計画的な有給消化を行う
円満退社の実現には、業務の引継ぎをしっかり行うことが欠かせません。有給消化期間を考慮した引継ぎスケジュールを組んで、職場の人たちに迷惑をかけることがないよう注意しましょう。
また、これまでお世話になった取引先や顧客に対しては、有給消化期間があることを話すか、有給消化期間の前日を退職日として伝えておくと、業務の引継ぎもスムーズに進みます。業務の内容をよく考えた上で、周囲の人たちへしっかり業務の引継ぎができるよう、計画的に行動することが重要です。
4.就業規則で違反がないか確認をする
何度も説明してきましたが、有給消化中に転職先で就業する場合、現在の勤め先の就業規則で二重就労が禁止されていないかを確認してください。就業規則に違反してしまうと、懲戒解雇となって、退職金が減額や無支給となるおそれがあります。有給休暇に入る前に、一度就業規則をよく読んで確認するようにしてください。
5.不明点があれば人事や労務に相談する
本記事で紹介してきたポイントのほかにも、企業によっては退職前の有給休暇の取得にあたって注意すべき点があるかもしれません。また、不安を残したまま有給休暇に入ってしまうと、せっかくの有給休暇を存分に楽しめなくなってしまいます。
そのため、退職時の有給休暇消化について不明点や疑問点があれば、人事や労務の担当者へ必ず確認するのがおすすめです。
最後に
本記事では、退職にあたって有給休暇を消化する場合、転職先での就業や転職活動が可能かどうかについて解説してきました。企業によって就業規則や決まりはそれぞれ異なるため、有給消化中に転職活動や転職先での就業を行う際には、現在の勤め先と転職先へ必ず確認を行うようにしましょう。業務の引継ぎをしっかり行いながら円満退社をするため、また転職先で気持ちよく働き始めるためにも、都度相談していく心掛けが重要です。