職業生活の中で知識や経験を蓄積し、スキルを磨いていると、いわゆる引き抜き転職の打診を受けることがあります。
キャリアアップに興味がある方にとっては魅力的なオファーであるケースも多いようですが、一方で考慮すべきリスクも存在します。
本記事では、引き抜き転職の打診を受けた際、決断をするにあたって踏まえるべきポイントについてご紹介します。
引き抜きとは
引き抜きとは、他社に在籍している人材を、自社へスカウトすることをいいます。
本記事では、エージェントなどの第三者を通さず直接的に企業から声がかかる、というパターンを想定してお話ししていきます。
ヘッドハンティングと引き抜きの違い
引き抜きとよく似た言葉として、「ヘッドハンティング」があります。いずれも他社の社員に対して自社で働かないかと声をかけるという点では共通していますが、次の観点で使い分けられることが多いようです。
①仲介の有無
ヘッドハンティングにおいては、「ヘッドハンター」と呼ばれる仲介人が介在することがほとんどです。
一方引き抜きという言葉には、第三者を介さず企業から直接声がかかるというニュアンスが含まれることが多いようです。共に仕事をしたことのある取引先や、自分が上げた成果を耳にした同業他社などが、スキルを見込んで直接声を掛けてくるケースなどが代表的な例です。
②打診されるポジション
近年はヘッドハンティングという言葉の意味もかなり広くとらえられるようになったようですが、元々はいわゆるエグゼクティブ層、つまり経営陣や上位役職者のポジションの候補者へ直接声を掛ける意味合いが強い概念です。
一方引き抜きの場合、役職等は関係なく、自社に必要なポジションに適している人材へ声を掛けること全般を指します。
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引き抜きによる転職のメリット
引き抜きのオファーがあった時点で、声を掛けてきた企業は、あなたのスキルや実績、人柄などが欲しい人材と合致する可能性が高いと判断しています。
そのため通常の転職活動、つまり「働きたいと感じる会社を探して自分から応募する」という方法に比べると、さまざまなメリットを享受することが可能です。
好条件が提示されることが多い
最大のメリットと言えるのは、今在籍している企業よりもよい条件が提示される可能性が高いということでしょう。
引き抜きという行為の性質上、現職よりも魅力のある条件でないと承諾してもらえないということは相手も認識しています。報酬やポジション、仕事の内容など、何らかの点で現職を上回る条件が提示されるはずです。
転職にかかる労力が少ない
もともと転職を検討していた人にとっては、労少なくして転職先を決めることができるというのもメリットです。忙しいビジネスパーソンにとっては、応募先の選定や応募書類の準備などにかける時間も貴重なもの。これらを省いて転職ができるという点は魅力的なのではないでしょうか。
引き抜きによる転職は、特に先方があなたの仕事ぶりを直接見知っている場合、書類選考や面接といった通常の選考は行われないか、簡略化されることがほとんどです。打診を受ける立場としても、相手方の企業の概況や一緒に働くことになる同僚についてある程度知っていることが多いため、お互い「見極め」にかける時間を短縮できると言えます。
ある程度高い評価を受けた状態で入社することができる
転職先で新たな職業生活をスタートするとき、いわゆる「前評判」が良い状態で入社できていると、新しい環境へなじみやすくなることがあります。
引き抜きによって入社する場合は、周りの同僚からしても「能力の高い人が入社してくる」という一種の安心感を覚えていることが多いものです。このことが、新しい環境で自分の立ち位置を築くための助けとなるでしょう。
引き抜きによる転職を検討する際の注意点
引き抜き転職を打診され、それに対して迷いがあるときは、単なる条件面だけでなく「オファーを受けることで想定されるリスク」が心配な場合も多いのではないでしょうか。
ここでは、引き抜きのオファーを受けた際にまず考えるべき注意点についてご説明します。
違法性の高い引き抜きではないかセルフチェックする
取引先や競合他社など、現職と関連性のある企業から引き抜き転職の打診があった際、それを受けることは違法ではないのかということが心配になる方もいると思います。
結論から言えば、引き抜きによる転職が違法となることは珍しく、基本的にはオファーを受けても問題ありません。憲法に定められた職業選択の自由を根拠として、転職先を選ぶ権利は厚く保護されています。
ただし次のようなケースのように違法性が問われる場合もあるため、心配な場合は専門家の意見を聞いてみるのがよいでしょう。
①競業避止義務に違反すると認められる場合(一般社員)
在籍中の社員は、使用者への誠実義務および競業避止義務を負っている場合がほとんどです。退職していない社員が他の社員を誘って一緒に競合他社へ転職しようとした場合、誘った側ばかりではなく誘われた側もこの義務に違反したとして、違法性を問われる可能性があります。
②競業避止義務に違反すると認められる場合(取締役)
引き抜きの打診を受けた側が取締役の地位にある場合、個別に契約を結んでいなかったとしても当然に会社法上の競業避止義務を負うことになります(会社法356条1項1号)。
原則として、退任後はその義務は消滅します。しかし、退任後も一定期間競業避止義務が継続する旨の特約を結んでいる場合は注意が必要です。
一般的な労働者であれば、競業避止義務契約が退職後の期間にまで及んでいたとしても、労働法によって一定の権利保護がされます(参考判例:ソフトウエア開発・ソリトン技研事件)。しかし役員の場合は労働法の適用外となるため、より慎重に判断する必要があります。
③引き抜きの形態が社会的相当性を逸脱していると判断される場合
同じ会社から社員を大量に引き抜いたり、余人を以って代えがたいような人材を引き抜いたりといった、元の会社に多大な損害を与える引き抜き行為は不法行為とみなされることがあります。
この場合、引き抜きに応じた立場の社員まで責任を問われることは多くありませんが、引き抜き自体が無効となりますので、注意が必要です。
現職の機密情報保持に関する規定を確認する
引き抜きによって転職すること自体が違法でなかったとしても、転職先の業務内容によっては、現職と結んでいる機密情報契約に違反してしまう可能性があります。
引き抜きのオファーを受けたら、現職との機密保持契約がどのような内容かということと、自身が保持している情報のうちどこまでが機密に該当するのか、ということを確認し、その情報を用いなくても転職先での業務遂行に支障はないか、という点を検討しましょう。
期待値を高く持たれていることを自覚する
メリットの項目で、「高い評価を受けた状態で入社できる」ということを述べました。これは言い換えると、その高い評価にそぐうような働きを求められている、ということでもあります。
もちろん必要以上にプレッシャーを感じる必要はありませんが、期待値を高く持たれていることを自覚し、十分に能力を発揮するよう努める心構えが必要です。
今後築きたいキャリアとの整合性を確認する
引き抜きを打診されたときに、「高い評価を受けた」「引き抜きにあった」という事実や、提示されたポスト・待遇に舞い上がってしまう人も中にはいるようです。
確かに、引き抜きの話が来たというのはあなたがこれまで身に着けてきたスキルや知識が評価されたという証左であり、誇りをもってよい出来事です。しかしそのこととは別として、自身の描きたいキャリアと今回受けた打診との整合性を確認してみましょう。目先の待遇や仕事内容だけでなく、その申し出を受けることで自分の将来はどのように変化していくのか、という展望をもって決断することが大切です。
よりよい条件での転職ができないか検討する
引き抜きの話があったという事実は、あなたの能力が他社においても十分通用するということを示しています。積極的には転職を希望していなかったけれど引き抜きの話によって心が動いた、という場合は、よりよい条件の求人がないか、ということも一度確認しておきましょう。
同じような業務内容でよりよい待遇の会社があった場合、もちろん応募を検討してもよいですし、場合によってはオファー元へ条件交渉をする際の武器にもなります。
業務内容・待遇の確認や交渉を念入りに行う
以前から関係のある相手の場合、業務内容はともかく、待遇の詳細な確認や交渉はしづらいと感じるかもしれません。
しかし、転職においては、「当初聞いていた仕事内容や待遇と差異がある」というトラブルが相当数あります。引き抜きでの転職の場合はエージェントやヘッドハンターなどの第三者が介在しないため、自分の責任でしっかりと条件面の確認・交渉をしていく必要があります。
後のトラブルを防ぎ、気持ちよく働くためにも、業務内容や待遇については丁寧にやりとりを行いましょう。
引き抜きによる転職を決めたあとの注意点
さまざまな点を加味して引き抜きに応じる決断をした場合、今度は現職への対応に心を配る必要があります。
同一業界の企業や取引先に誘われて転職するというようなケースは、現職と今後も関わりが出てくる可能性が高いため、特に注意が必要です。
退職交渉では慎重かつ誠実な対応を
最も神経を使うであろうポイントは、退職交渉の場面です。引き抜きは特に現職とトラブルになりやすい退職理由です。場合によっては転職先に悪感情を抱かれてしまう可能性もあるため、伝える内容とその言い方については事前にシミュレーションを行い、慎重に切り出しましょう。転職先で新たなチャレンジをしたい、自分の成長につなげたいなどの前向きな理由と、それはなぜ現職で実現できないのか、という理屈付けを用意しておくことがおすすめです。
表現や話す内容に配慮は必要ですが、嘘をつくことはお勧めしません。丁寧かつ誠実な対応を心がけ、円満退社を目指しましょう。
退職日までの勤務態度にも気を配る
退職が確定してからも、仕事の質や勤務態度は変えず、退職日まで誠実に勤務することをおすすめします。
これはモラル上の理由でそう述べているのではありません。特に業界内での転職の場合情報が回りやすく、いい加減な勤務をしてしまうと転職先の耳にそれが入ることもありうるからです。
最後に
この記事で説明してきた内容をまとめると以下のとおりです。
この記事のポイント
- 引き抜き転職には好条件の提示や転職活動の早期での結実などのメリットがある
- エージェントなど転職のプロを介さないケースが多く、違法性の有無や詳細な条件面は自身でしっかりと確認することが必要
- トラブルになりやすい退職事由のため、転職を決心した場合現職には丁寧で誠実な対応を
引き抜きの打診は自分の能力が評価された証であり、現職よりも良い条件が提示されるなどのメリットも多いですが、安易に応じるのはリスクも伴います。
自身のキャリア志向や仕事に対する優先順位、現職と転職先の関係などを考慮したうえで、慎重な判断をお勧めします。
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